わたしらしさに彩りを。

日々のよしなしごとを綴ります。食べることとaikoと言葉をこよなく愛する女子大生。

言葉の森を歩く

 

作家の宮下奈都さんとピアニストの金子三勇士さん、
調律師の中谷哲也さんによる、トーク&コンサートに行ってきました。


その名も『「羊と鋼の森」を歩く』。

ご存知の方も多いかと思いますが、
羊と鋼の森」は、2016年本屋大賞を受賞した小説です。


講演会みたいな堅苦しい形式ではまったくなく
調律師が主人公である小説の世界にぴったりで、
とっても素敵なコンサートでした。


宮下さんのトークステージに始まり
金子さんのコンサートステージ、

休憩を挟み、トークを交えながらのピアノ演奏に続いて
中谷さんがステージ上で実際の調律を行うところを見せてくださり、

最後は金子さんから宮下さんへのプレゼント演奏でしめくくる、という

ものすごく盛りだくさんな内容でした。

 

宮下さんのお話で特に印象的だったのが、
羊と鋼の森」が誕生したときのエピソード。


一年間北海道で生活されていたことがあるそうなんですが、

そのとき目にした言葉にできないような美しい景色と
言葉では言い表せない音楽というものが結びつくのではないか、

というところから始まったそうです。


「小説と音楽は切り離せない」

「小説とピアノの親和性がすごく高い」


そう話す宮下さんは、小説に行き詰まるとピアノを弾くそうです。

すると、うそみたいに筆が進むようになるのだとか。


「漫画と音楽はひとつ」

何年もそう言い続けている人の言葉が、ふっとよみがえりました。

「読む」ものである小説や漫画だけれど、
音楽とは切っても切り離せないと、わたし自身もそう思います。


文字、なのに聴こえる。
絵、なのに感じる。

なんて、ふしぎなことですが。

だからこそ難しいし、だからこそ伝わったときの喜びは並大抵のものではないのだと思う。

 


コンサートステージは、わたしたちにもなじみの深い
いわゆる名曲をメインとした選曲でした。

久しぶりに生で聴くプロのピアノ演奏。

 

衝撃でした。

ピアノの音はこんなにも繊細で、
こんなにも豊かに響くものだったのか、と。


朗々と歌うように

ささやくように

語りかけるように

乱暴までに荒々しく

ときに空気をふるわせることすらためらうような優しさで、

ときにびりびりと空気をやぶるような情熱を持ってして。


ここまでして、いったいこの人はなにを伝えようとしているんだろう。

この曲を通してなにを表現して、なにを届けようとしてるんだろう。


曲を演奏し終えることは、一つの作品を仕上げることに似ていると思いました。

ケーキをつくるとか。小説をかくとか。
創作と名のつくすべてに通じるものなのではないだろうか、と。

 

わたしが心を動かされるのは言葉だけではなかった。
音楽が、とても好きなのだった。


想いを伝える手段としての音楽

なんて、胸を張れるほどの技量を持ちあわせているわけではないけれど、
それでも、演奏することの快感や喜びが忘れられなくて。

自分たちの音楽が、誰かに届いた実感を強く得られることがこの上なく嬉しかったから、
ずっとずっと続けてきたのです。

けっして惰性で13年間もやってきたわけではなかったのだ、ということを
激しく思い出しました。

 

心を動かされると、涙が出るのはどうしてか。

感動すると泣くもの、ということを知らなくてもそうなるんだろうか。
こらえきれないこの想いは、なぜ涙になって現れるのか。

そう思いながら、心が震えているのを強く感じていました。


なんか苦しい、と思ってはじめて、息をしていなかったことに気がつきました。

演奏を聴いて、息をすることすら忘れていました。

体温があがり、心臓がどくどくと脈を打ち、
顔が熱くなるのを止められなかった。


演奏自体の素晴らしさはもとより、
もしかしたらそれ以上に、金子さんが演奏している姿に
心を揺さぶられたかもしれない。


魂の一部すら込められてるんじゃなかろうか、
と思わせるほどの熱量で、

髪を振り乱し、渾身の力を込めて鍵盤を叩くその姿に。


超絶技巧の演奏や素晴らしい小説、
宝石みたいにきれいなケーキだって、

わたしと同じ人間の手でつくられたものなのだ
という
当たり前の事実に打ちのめされました。


(例えがケーキと音楽と小説ばっかりやないかってそろそろ思いますよね。それがわたしのだいたい全てです)

 


調律師さんと司会の方も交えてお話されているときに。

ステージにいる全員が、
けっしていやな感じではなく、美しく自信に満ちあふれているのが見てとれました。


三者三様のお仕事ではあるけれど、

それぞれが自分の仕事に誇りを持っていて
かつ実力も兼ね備えている方たちだから、
共通したオーラを感じたのだと思います。


素直に、すごいなあと思いました。

好きなことを仕事にできるのもすごいし、
なによりも、ずっと同じことに情熱を傾けられることがすごい。

わたしにとっては途方もなく長い時間をかけてずっと同じことに向き合い、
それで生計をたて、
かつ今でも「楽しい」とさわやかに笑えるなんて。


わたしもずっと「好きなことを仕事にしたい」と思い続けていたけれど、

最近は、好きだからこそ
「やらなきゃいけない」になるのがこわい。

それを超えて「楽しい」と胸を張れることを、
とてもまぶしく感じました。

 

コンサートが終わったあと、

本を買って、宮下さんにサインをしてもらうため列に並びました。


作家さんと直接お話するなんてはじめてだし、こんな機会きっとめったにない。

そう思うとどきどきして、何を聞こうか必死で頭をめぐらせました。

どこかのインタビューにも載ってそうなことじゃなくて、
この際じゃなきゃ聞けないことを聞きたい、という欲がありました。


ついに順番が回ってきました。

本を手渡すと、宮下さんは
「ありがとうございます」と優しく微笑んでくれました。

緊張してなかなか言い出せず、サインを書き終えそうになったころにやっと、
おそるおそる切り出しました。

 

「言葉で人の心を動かすために、
一番大切なことってなんでしょうか」


考えて考えて、でもやっぱりそれが一番わたしの知りたいことでした。


「誠実に、言葉を選ぶことじゃないでしょうか。
自分の心に、嘘をつかずに。」


と。

 

誠実に。自分の心に嘘をつかずに。

そう答えてくれる方の書く文章だから、
きっと多くの人の心が動かされたのだと思いました。


小説を書いているんですか?と聞かれたから
いえ、でも文章を書くのが好きで、と言うと、

「大丈夫、書けますよ」と、
ふわりと笑って言ってくれました。


とても嬉しかった。

 

好きなことをすきなように、と思って書いても

何か感じてほしい、
表現で魅せたい、
すごいと思われたい、

みたいな、書くのも恥ずかしいような欲が、
ほとんど無意識に出てきてしまうことが多い。

だから、
自分の心に誠実に、というのは
シンプルだけどとても難しいな。

 

ていねいに、誠実に心がけてみました。

そのうえで、何かを伝えることができたなら。

 

コンサート中、わたしはとにかく書きたくて仕方なかった。

いま感じるこの想いを早く形にしたい、と
もどかしいほど強く思っていました。


そう感じさせてくれるものに出逢えることって
とてつもなく、しあわせです。

 

わたしはわたしの、森を歩く。

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